この記事の目次
70歳を過ぎてもゴルフを続けるいちばんのコツは、若い頃のフルスイングを目指さないことです。可動域(体の回る範囲)や筋力は年齢とともに変わります。それでも、股関節と胸で回す、バックスイングを短くする、フィニッシュで腰を反らさない、という原則を押さえれば、腰や膝への負担を抑えながら十分に楽しめます。この記事では、公的機関や査読論文の公開資料をもとに、シニアの体に合ったスイングの考え方、ラウンド前の準備、膝の守り方、受診の目安をまとめます。
70歳前後で体はどう変わるのか
厚生労働省のe-ヘルスネットによると、骨格筋量の低下は25〜30歳頃から始まり、生涯を通して進行します。活動不足や栄養不良が重なると、筋力や歩行速度が落ちる「サルコペニア(加齢による筋肉量・筋力の低下)」につながるとされています。
スイングに直結するのは、下半身と体幹の筋力、そして股関節や胸郭(胸まわりの骨格)のひねりやすさです。ここが落ちると、体は回りにくい部分を腰でごまかそうとします。若い頃と同じ大きさのバックスイングを腰の反りや横曲げで無理に作ることが、痛みの土台になりやすいのです。
一方で、体は使えば維持しやすくなります。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、高齢者に歩行などの身体活動を1日40分以上(約6,000歩以上)、有酸素運動・筋力トレーニング・バランス運動・柔軟運動といった多要素な運動を週3日以上行うことを推奨し、「個人差を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組む」姿勢を示しています。e-ヘルスネットも、サルコペニア予防にはレジスタンス運動(筋トレ)が有用としています。長く続けるための体づくりは、ゴルフは何歳までできる?80代・90代ゴルファーの共通点でも詳しく触れています。
腰に負担をかけないスイングの原則
Edwardsらが2020年に発表したレビュー論文(Sports Medicine and Health Science誌)では、インパクト直後に腰椎のL4〜L5(腰の下のほうの骨)にかかる圧迫力は体重の6.5〜8倍以上に達すると報告されています。同じ論文は、腰痛に関わる可能性がある要因として、体幹の回しすぎ、横曲げと骨盤回転が重なる動き、フィニッシュでの腰の反り、リード側(右打ちなら左)の股関節の内旋(内側へのひねり)が小さいことなどを挙げています。ここから、シニアが押さえたい原則が見えてきます。
股関節と胸郭で回し、腰でひねらない
回転を作る主役は股関節と胸郭です。アドレスは股関節から上体を折り、背骨を自然なカーブのまま保つのが出発点です。バックスイングでは右の股関節に体重を乗せながら骨盤を回し、その上で胸をさらに回す。ダウンスイングは左の股関節に乗り替えながら骨盤から回す。この「下から順番に回る」感覚を大切にすると、腰だけを絞る動きが減ります。Edwardsらも、骨盤の動きの順序の乱れが腰への負担につながる可能性を指摘しています。
バックスイングは短くてよい
同じレビューでは、体幹の回転を減らした短いバックスイングは、パフォーマンスを大きく損なわずに脊椎への負荷を下げると報告されています。シャフトが地面と平行になる手前、いわゆるスリークォーターの位置でトップを迎える意識で十分です。無理に大きく上げると、トップで腰が反り、背骨が目標方向に傾く姿勢になりやすく、これも腰にとって好ましくない形とされています。
フィニッシュで無理に反らない
背中が弓のように反るフィニッシュは見た目に美しいものですが、Edwardsらは、腰を反らせた「逆C字」のフィニッシュが腰椎に前後方向のずれる力(せん断力)を増やすとしています。シニアは、振り切ったあと体を目標に正対させ、背筋はまっすぐ、体重は左足に静かに乗る形を目指すほうが安心です。
スタンス幅・ボール位置・クラブの重さを見直す
構えの条件と道具を変えることでも負担は減らせます。若い頃のフルスイングと、シニアが目指したいスイングの違いを表に整理しました。
| 項目 | 若い頃のフルスイング | 70歳からの負担の少ないスイング |
|---|---|---|
| バックスイングの大きさ | シャフトが地面と平行以上 | スリークォーター(4分の3)程度で止める |
| 回転の主役 | 体幹を大きくねじる | 股関節と胸郭で回し、腰はねじらない |
| フィニッシュ | 胸を張り背中を反らす | 背筋はまっすぐ、左足に静かに乗る |
| スタンス幅 | 狭めで回転を重視 | 肩幅程度でやや広め、土台を安定させる |
| ボール位置 | ドライバーは左足かかと線上 | 基本は同じだが、無理に左に置きすぎない |
| クラブ | 重く硬いシャフト | 軽量・やわらかめのシャフトで振り切れる重さ |
スタンスは、狭すぎると土台が不安定になり、広すぎると股関節が回りにくくなります。肩幅を基準に、いちばん楽に回れる幅を探してください。ボール位置は、左に置きすぎるとインパクトで上体が目標方向に流れ、腰の横曲げと左膝への負担が増えやすくなります。
重すぎるクラブは手や肩の力でねじり上げる原因になり、腰でごまかす動きを招きます。軽量シャフトや柔らかめのフレックスへの見直しは、60代からのゴルフクラブの選び方|シャフトR・SR・A・軽量化の基準で具体的な目安を紹介しています。
ラウンド前の準備運動と球数管理
冷えた体でいきなりドライバーを振るのは、腰にとって厳しい始め方です。Edwardsらのレビューでは、回転を取り入れたウォームアップがクラブヘッドスピードの有意な向上につながった報告が紹介されています。スタート前には次の流れを目安にしてみてください。
- まず数分歩いて体を温める
- 股関節を動かす:脚を前後・左右にゆっくり振る、骨盤を回す
- 胸郭を動かす:クラブを胸の前で抱え、上体を左右にゆっくり回す
- 小さな素振りから徐々に大きくする
- 打席では短いクラブから始め、ドライバーは最後に数球だけ
もう一つの柱が球数の管理です。「調子が出てきたからもう1かご」と続けるうちに、疲れて崩れたフォームで打ち続け、そこで腰を痛めがちです。あらかじめ本数を決め、痛みや違和感が出たら終える。ラウンドの翌日に打ち込まない。こうした自己管理は若い頃より大きな意味を持ちます。日本整形外科学会も腰痛の予防として、日常の姿勢に注意し、腰の支持性を高める運動や体操を続けることを勧めています。
膝への配慮:左膝・スパイク・傾斜地
腰と同じくらい気をつけたいのが、右打ちの人の左膝(リード側の膝)です。Kimらが2022年にScientific Reports誌で発表した研究では、スイング中にリード側の膝にかかる負荷は歩行時より大きいとされ、スタンスが狭いこと、目標方向へ体重や肩が過度に流れることが、膝の内側にかかる力の増加と関係していました。対象は若いプロゴルファーですが、「土台を広めに保ち、上体を目標方向に突っ込ませない」という方向性は参考になります。
インパクトからフィニッシュで左膝がピンと伸び切り、その上で体が回る形は、膝にねじる力が集中しやすい動きです。左膝はわずかに曲がった状態を保ち、フォローで左足のつま先がやや開く程度の余裕を持たせると、集中を避けやすくなります。
日本整形外科学会によると、変形性膝関節症(膝の軟骨がすり減り、変形や痛みが出る病気)は男女比1対4で女性に多く、高齢になるほど罹患率が高くなります。初期は動作の開始時のみに痛み、休めば痛みがとれるのが特徴で、予防には太もも前の筋肉(大腿四頭筋)を鍛える、正座を避ける、肥満であれば減量する、といったことが挙げられています。
- スパイク:地面を強くつかむ靴ほど、回転時に膝でねじれを受け止めることになります。膝に不安がある人は、グリップ力が穏やかなスパイクレスを選ぶのも一つの考え方です
- 傾斜地:左足下がりやつま先下がりのライではフルスイングを避け、クラブを短く持って体重移動を小さくします。無理に振るより刻むほうが膝も腰もスコアも守れます
「フォームが悪いから腰が痛い」とは限らない
研究の限界も正直にお伝えします。Watsonらが2023年にJournal of Sports Sciences誌で発表したシステマティックレビュー(複数の研究を集めて評価した論文)は、スイング動作と腰痛を同時に調べた9本の研究を分析し、「腰痛が『悪い』スイング技術と関連しているという一般的な考えを支持する決定的な証拠はない」と結論づけています。フォームを直せば腰痛が防げる、と断言できる段階にはないのです。
だからこそ大切なのは、自分の体が今日どこまで動くかを知り、その範囲の中で振ることです。腰が重い日はバックスイングをさらに小さくし、球数を減らす。変わる体との付き合い方は、60代・70代でゴルフは何が変わる?体・スコア・楽しみ方のリアルでも整理しています。
受診の目安と、持病がある方へ
日本整形外科学会は腰痛について、次の状態では「放置したり自分で管理することは禁物」とし、整形外科の受診を勧めています。
- 安静にしていても痛みが軽くならない、しだいに悪化する
- 発熱している
- 下肢(脚)がしびれたり、力が入らない
- 尿漏れがする
膝も、休んでも痛みが引かない、伸び切らない、腫れて熱を持つ、階段や正座がつらい、といった変化が続くときは受診の目安です。また、腰や膝の持病、骨粗しょう症、心臓や血圧の病気などで治療中の方は、練習や筋力トレーニングを始める前に主治医に「ゴルフを続けたい」と伝えて相談してください。運動の強さや避けたい動きは一人ひとり違います。
まとめ:小さく回して、長く続ける
70歳からのスイングで目指すのは飛距離の最大化ではなく、腰と膝を守りながら来月も来年もコースに立てることです。
- 可動域が落ちた体で若い頃のフルスイングを再現しようとしない
- 股関節と胸郭で回し、バックスイングはスリークォーターまで。フィニッシュで腰を反らさない
- スタンスは肩幅程度、クラブは振り切れる軽さに。ラウンド前は歩いて温め、球数はあらかじめ決める
- 左膝は伸ばし切らず、傾斜地では刻む。靴と段差にも気を配る
- 安静時の痛み、しびれ、発熱、尿漏れがあれば受診。持病がある方は主治医に相談してから
スイングを小さくすることはあきらめではありません。体に合わせて振り方を変えられる人こそ、100歳までゴルフを続けられる人です。
この記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、個別の診断・治療の代わりになるものではありません。痛みや体調不良が続く場合、持病がある場合は、医師など専門家にご相談ください。
参考文献・出典
- Edwards N, Dickin C, Wang H. Low back pain and golf: A review of biomechanical risk factors. Sports Medicine and Health Science 2020
- Watson et al. Biomechanical parameters of the golf swing associated with lower back pain: A systematic review. Journal of Sports Sciences 2023
- Kim et al. Potential biomechanical risk factors on developing lead knee osteoarthritis in the golf swing. Scientific Reports 2022
- 日本整形外科学会「腰痛」症状・病気をしらべる
- 日本整形外科学会「変形性膝関節症」症状・病気をしらべる
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「サルコペニア」
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
